「明日の会議の資料、AIに作らせちゃおう」と思い立って、チャット欄に「新サービスの提案資料を作って」と打ち込む。数秒後、それらしいスライド案がずらっと出てくる。……のですが、読んでみると「なんか違う」。
どこかで見たような一般論ばかりで、自社の話が一切入っていない。1枚に文字がぎっしり詰まっていて、そのまま投影したら誰も読めない。
この「なんか違う」は、AIの性能が足りないせいとは限りません。多くの場合、命令(プロンプト)の書き方でかなり改善できます。この記事では、AIにパワーポイント資料を作らせるときに特に効く指示のコツを、プロンプト例つきで紹介します。
なぜ命令の仕方で結果が変わるのか
理由はシンプルで、AIはあなたの状況を何も知らないからです。
「新サービスの提案資料を作って」と言われたAIの立場になってみてください。誰に見せるのか、5分なのか30分なのか、決裁を取りたいのか単なる情報共有なのか——何ひとつ分かりません。
分からないとき、AIは「どんな場面でもだいたい当てはまる、無難な内容」を出してきます。これが「なんか違う」の正体です。間違ってはいないけれど、あなたの資料としては使えないわけですね。
逆に言えば、前提を渡すほど出力は具体的になります。プロンプトのコツはいくつもありますが、その中でも土台になるのが「AIが知りようのない前提を、先に教えてあげる」という発想です。この記事では、それを起点に効果の大きいものから順に紹介していきます。
なお、AIツールはサービスごとに得意分野やクセが違います。同じプロンプトでも出方が変わるので、いくつか試して自分に合うものを見つけるのがおすすめです。
コツ1:前提情報を最初にまとめて渡す
まず渡すべきは、次の4つです。
- 誰に向けた資料か(役職・知識レベル・立場)
- 何分のプレゼンか(=おおよそのスライド枚数が決まる)
- 目的は何か(提案・報告・共有・説得など)
- 相手にどうしてほしいか(承認してほしい、検討を始めてほしい、など)
悪い例と良い例を比べてみます。
悪い例:
業務効率化ツール導入の提案資料を作って
良い例:
社内のプレゼン資料を作りたいので手伝ってください。 ・聞き手:経理部門の部長と課長(ITには詳しくない) ・時間:10分(質疑応答は別) ・目的:経費精算ツールの導入を提案し、次回の予算会議に議題として上げてもらうこと ・伝えたいこと:今の紙ベースの処理が月末に集中して残業が発生している、という課題
後者からは「ITに詳しくない人向けの言葉遣いで、10分に収まる分量の、予算会議への橋渡しを狙った資料」が返ってきます。ここが一番効くポイントです。
コツ2:いきなり作らせず、まず構成だけ出させる
やりがちな失敗が、最初から「スライドを全部作って」と頼んでしまうことです。
全部作らせると、方向性がズレていたときに丸ごとやり直しになります。しかも完成形っぽいものが出てくると、「まあこれでいいか」と流されがちです。
そこで、最初は目次(アウトライン)だけを出させます。
まずはスライドの構成案だけ出してください。各スライドのタイトルと、そこで伝えたいことを1行で。スライドは8枚以内。本文はまだ書かなくていいです。
構成を見て「3枚目と4枚目は逆のほうが自然だな」「コスト面が抜けているな」と直してから中身を作らせる。この順番にするだけで、やり直しの手間がぐっと減ります。
コツ3:1スライド1メッセージ、そして数字で縛る
AIは放っておくと情報を詰め込みます。親切心なのでしょうが、投影資料としては読めません。
対策は、「1スライド1メッセージ」を明示することと、文字数を数字で指定することです。
各スライドは「1スライド1メッセージ」でお願いします。 ・箇条書きは1枚あたり3つまで ・箇条書き1つは30文字以内 ・スライドタイトルは20文字以内
「簡潔に」といった曖昧な指示だと、AIの「簡潔」とあなたの「簡潔」がズレます。数字で縛れば、狙った粒度にかなり近づきます。
ただし、ぴったりの文字数になることは期待しないでください。AIは文章を「文字」ではなく「トークン」と呼ばれる単位で処理していて、内部に文字数のカウンターを持っていません。そのため「30文字以内」と指定しても、多少はみ出すことがあります。それでも「簡潔に」と言うよりは圧倒的に狙いどおりの長さに寄るので、指示としては有効です。最終的な文字数の調整は自分の手で行う、と考えておくとちょうどいいでしょう。
コツ4:スライドの型と出力形式を指定する
レイアウトの型を伝えておくと、あとでパワーポイントに流し込むときが楽です。
各スライドは「タイトル+箇条書き3点」の型で統一してください。 比較を扱うスライドだけは、左に現状・右に導入後、という2列の表にしてください。
あわせて出力形式も指定しておくと、後工程のコピペ作業がぐっと減ります。
出力はMarkdownで、スライドごとに
---で区切ってください。 各スライドは「スライド番号/タイトル/箇条書き/スピーカーノート」の順で書いてください。
コツ5:話す内容も一緒に作らせる
スライドの文字が多くなる一番の原因は、「話すこと」まで全部スライドに書こうとするからです。これはスピーカーノート(発表者用の原稿メモ)を別枠で作らせると一気に解決します。
各スライドに、話し言葉のスピーカーノートを150文字程度で付けてください。スライドには結論だけを短く書き、理由や補足はノート側に回してください。
こうすると「スライドは短く、詳細は口頭で」という形に自然と寄っていきます。おまけに、発表練習用の原稿がそのまま手に入ります。
コツ6:やってほしくないことも書く
意外と効くのがNG指示です。人間なら空気で伝わることも、AIには言葉にしないと伝わりません。
以下は避けてください。 ・専門用語やカタカナ語(使う場合は必ず一言説明を添える) ・「意識改革」「シナジー」のような抽象的な精神論 ・数字の根拠がない断定(「大幅に削減できます」など)
特に「根拠のない断定を書かない」は入れておくと安心です。AIはそれっぽい数字を添えたがることがあるので、先回りして止めておきましょう。
コピペで使えるテンプレート
ここまでを1つにまとめた雛形です。カッコの中を自分の状況に書き換えて使ってください。
プレゼン資料の構成を作るのを手伝ってください。
【前提】 ・聞き手:(役職・知識レベル) ・時間:(○分) ・目的:(提案/報告/共有など) ・ゴール:(相手にどうしてほしいか) ・材料:(手元にある情報・課題・データ)
【ルール】 ・1スライド1メッセージ ・箇条書きは3つまで、各30文字以内 ・スライドタイトルは20文字以内 ・専門用語は避け、使う場合は補足を添える ・根拠のない断定表現は使わない
【出力形式】 ・Markdownで、スライドごとに
---で区切る ・各スライドに150文字程度のスピーカーノートを付けるまずは構成案(各スライドのタイトルと一言説明)だけ出してください。本文はOKを出してから作ります。
一度で完成させようとしない
一発で完成させようとしないことも、遠回りに見えて一番の近道です。出てきた資料に不満があるとき、最初からやり直すのではなく、部分的に直していきます。
3枚目が抽象的なので、具体的な業務の流れを例に書き直してください。他のスライドはそのままで。
「他はそのままで」と添えるのがコツです。これを付けないと、直してほしくない部分まで作り変えられてしまうことがあります。
最後に:出てきたものは必ず自分で確認する
便利な反面、気をつけたいことが3つあります。
1. 事実関係とデータは必ず裏取りする AIは、もっともらしいけれど誤った情報を書くことがあります。数字や事例が入っていたら、そのまま使わず出典を自分で確認してください。
2. 機密情報は入力しない 未公開の売上、顧客の個人情報、社外秘の資料などは入力しないのが基本です。会社によっては業務でのAI利用にルールが定められていることもあるので、まずは自社の方針を確認しましょう。仮のデータや一般化した表現に置き換えて相談するだけでも、十分に役立つ構成案は返ってきます。
3. 最終的な責任は自分にある AIが作ったものをそのまま出して、突っ込まれて答えられないのが一番きつい展開です。「たたき台を高速で作ってくれる相棒」と考えて、中身は自分の言葉で理解しておきましょう。
とはいえ、白紙から組み立てるのと、出てきた案に手を入れるのとでは負担がまるで違います。まずは「前提情報を渡す」「構成だけ先に出させる」の2つから試してみてください。